脊椎疾患

内側椎間関節切除術

腰部脊柱管狭窄症に対して後方(背中側)から行う神経除圧術です(図1)。
間欠跛行、 下肢の痺れ、 排尿、 排便障害などの症状があり、 且つ脊椎に不安定性がない患者さんが対象です。
具体的には後方から馬尾神経、 神経根を圧迫している骨性成分、 黄色靭帯を切除する事により神経の通り道を広げます。
手術時間は一箇所の手術なら30分から1時間程度となっており、 一般的に術後7日程度で退院することが可能です。seki_img

図1.  腰部脊柱管狭窄症に対する内側椎間関節切除術のイラストです。狭くなった脊柱管を広げることにより、臀部から下肢の痛みや歩行障害を改善する効果が期待できます。

椎間板ヘルニア摘出術

腰椎椎間板ヘルニアに対して行う手術です。
椎間板ヘルニアによる下肢麻痺が生じている方、 疼痛が酷く日常生活が送れない方や、 薬物療法などの保存的治療で改善が認められなかった患者さんが対象となります。
後方(背中側)から骨を少し削り、 神経根や硬膜の腹側にある椎間板ヘルニアを摘出する手術です。
当院では、ヘルニアのタイプによって2.5㎝程度の小切開でヘルニアを摘出する低侵襲手術を取り入れています(図2-A、B)。
手術時間は30分〜1時間程度となっており、 術後数日から7日程度で退院することが出来ます。

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図2-A.  手術中の写真です。照明がついた特殊な金属の筒を使うことで、筋肉の損傷を最小限にすることができます。

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図2-B.  術後の創です。2.5cm程度の長さです。

椎間板ヘルニアに対する経皮的椎間板内酵素注入療法

椎間板内に酵素を含んだ薬剤(ヘルニコア)を直接注射して、ヘルニアによる神経の圧迫を弱める方法です(図3)。
ヘルニコアとは椎間板の中心にある髄核の保水成分(プロテオグリカン)を分解する酵素です。髄核に適切な量のヘルニコアを注入すると、髄核内の保水成分が分解され、水分による膨らみが適度にやわらぎます。その結果、神経への圧迫が改善し、痛みやしびれが軽減すると考えられています。
この方法は、すべての椎間板ヘルニアに対して用いることができるわけではありません。詳しくは担当医に相談してください。
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図3.  腰の斜め後ろから針を刺して薬液を椎間板内へ注入します。

腰椎後方進入椎体間固定術(CBT法)

腰椎変性すべり症や椎間孔狭窄症などに行う手術です。神経を圧迫している骨・人体などを切除した後に、不安定な箇所を金属で固定します、金属の固定だけではいずれ緩んでしまうので、骨を移植して背骨と背骨の間を骨で癒合させます。
近年開発されたCBT法は、従来法とは異なりスクリューを内側から外側へ向けて刺入するので、筋肉を広く開く必要がありません。身体への負担が軽い低侵襲手術の一つです。一方、骨の形態に逆らってスクリューを刺入するので従来の方法に比べて正確な刺入が難しいです。
当院では患者適合型ガイド(図4-A、 B、 C、D)を用いることにより正確性を高めています。
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図4-A.  患者さんのCTから作成した腰椎の実体モデルとスクリュー刺入用のガイドです。

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図4-B.  ガイドは患者さんの腰椎にピッタリ合うように作られており、ガイドの穴を通してドリルを使うと計画通りの位置に穴をあけることができます。

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図4-C.  実際にガイドを使ってスクリューを刺入する穴をあけているところです。

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図4-D.  CBT法で第4-第5腰椎間を固定した患者さんの画像です。計画通りの位置にスクリューが入っています。内側から外側へスクリューを刺入するので、従来よりも筋肉の損傷が少なく、皮膚切開も小さく済みます。

経皮的椎弓根スクリューを用いた低侵襲腰椎固定術:PPS法

CBT法と同様に、腰椎の後方固定術の際の工夫としてPPS法を行うこともあります。
本法は椎弓根スクリューを刺入する際に、従来のように広い範囲の筋肉を骨から剥離して直視下にスクリューを刺入するのではなく、皮膚に小さな切開を加えて筋肉を剥がさずスクリューを刺入する方法です(図5)。レントゲン透視や神経モニタリングを用いることで、正確かつ安全に椎弓根スクリューを刺入することが可能になりました。
この方法を用いることで、従来法より腰椎の後方にある脊柱起立筋への侵襲を低減するのと同時に、骨盤の骨に邪魔されることなく下位腰椎でも解剖学的に正確な位置にスクリューを刺入できるようになりました。
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図5.  当院で使用している代表的な経皮的椎弓根スクリューシステムです。

成人脊柱変形手術

加齢による脊椎変性に起因する脊柱変形に対する手術です(図6-A、 B))。
対象となる疾患は脊椎変性側弯症や後弯症などです。
かなり侵襲の大きな手術ですが、医療技術の進歩により比較的安全に行えるようになってきました。
通常2回(中7日程度)に分けて手術を行います。
1回目の手術は左側腹部より行い、椎体間ケージと呼ばれる人工物を設置します(OLIF)。
2回目の手術で背側よりスクリューとロッドによる変形矯正を行います。通常1か月程度の入院と半年程度のコルセット着用が必要となります。
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図6-A.  腰椎変性側弯症の患者さんです。正面から見ると大きく側方へ曲がっていることがわかります。腰痛のため立位の保持が困難でした。

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図6-B.  手術は2回に分けて行いました。初めに側方進入椎体間固定術(OLIF)、1週間後に後方矯正固定術を行いました。術後は立位バランスと腰痛が著しく改善しました。

頚椎前方固定術

椎間板や骨棘などによって神経が前方から圧迫されている場合に有効な手術方法です。
対象となる疾患:頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症、1-2椎間の頚椎症性脊髄症など
前方から椎間板を摘出した後に、椎体間ケージを挿入し、神経の通り道を拡げて固定します(図7、8)。
この手術の特長は出血や創部の痛みが少なく、早期に日常生活に復帰できることです。
手術は全身麻酔下に仰向けで行い、頚部前方左側より患部に到達します。
通常、装具は使用せず、標準的には術後2週間での退院となります。
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図7.  正面から見た椎体間ケージ挿入後のイラストです。

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図8.  第4-第5頸椎間に椎体間ケージを用いた前方固定術を行った患者さんの術前と術後の側面レントゲンです。

頸椎後方除圧固定術

不安定性や変形を伴う頚椎症性脊髄症、重度の頸椎後縦靭帯骨化症、慢性関節リウマチによる頸椎病変などが対象です。
一般的にはスクリューと、スクリュー同士を連結するロッドを用います。
様々なスクリューの刺入方法のうち、椎弓根スクリューが最も固定力の強い方法です。
しかし、椎弓根スクリューは椎骨動脈という重要な血管のそばを通るため、すこしのズレが重大な合併症につながります。 
当院ではこの手術に対して、患者さんのCTから作成した患者適合型ガイドを用いております(図9、10、11)。ガイドを用いてスクリューを刺入することにより、安全性を高めています。
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図9.  スクリュー刺入用のガイド(A)と患者さんの実物大の頸椎モデル(B)、および頸椎モデルとガイドを合体させた状態(C)です。

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図10.  手術中に患者さんの頸椎に密着させ、ガイドを通してスクリューを刺入する穴を作成します。

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図11.  後弯変形(猫背)を伴う頚椎症性脊髄症の患者さんです。脊柱管を拡大し、猫背の変形を矯正して固定しています(A)。術後CTでは正確にスクリューが刺入されていることがわかります(B、C)。

頸椎椎弓形成術

頸椎の後方手術で、頚椎症性脊髄症や後縦靭帯骨化症など脊髄の圧迫がある疾患に行います。
椎弓という脊髄の後方にある神経の屋根にあたる部分を、特殊なドリルで真ん中を開けて、外側に溝を作成して、観音開きのように開けることで脊髄を後方に逃がし圧迫を解除します(図12)。
複数の部位で神経の圧迫がある場合でも一度の手術で同時に対処できるのが最大の利点です。
開いた椎弓間に人口骨スペーサーを設置することもあります。
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図12.  左は術前、右は術後のMRIです。術後は脊髄が膨らみ、周囲に白い隙間でできています。

頸椎椎間孔拡大術

椎間孔という脊髄から枝分かれして神経根が出てくる部位に狭窄がある場合に行う手術です。
頚椎症性神経根症や椎間板へルニアが代表的な疾患です。
頸椎の後方から、該当する椎間孔周囲の骨を切除して、神経根の圧迫を解除します(図13)。
神経根の症状に加えて脊髄の圧迫による症状もある場合は、先述した椎弓形成術と同時に椎間孔の開放を行うこともあります。この場合は脊髄と神経根の圧迫を同時に解除することが可能になります。
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図13.  椎間関節の内側を部分切除して椎間孔を拡大しています。

胸椎黄色靭帯骨化症に対する手術

厚生労働省指定難病のひとつである胸椎黄色靭帯骨化症とは、胸椎で脊髄の後方にある黄色靭帯が厚くなり、本来薄く柔らかい靭帯が骨のように固くなることで脊髄を圧迫する疾患です(図14)。
重度の脊髄圧迫では下肢の筋力低下や歩行障害、尿や便の出が悪くなる膀胱直腸障害といわれる症状が出て、生活の質が著しく低下することがあります。
この疾患に対しては胸椎の後方から椎弓を切除して脊髄圧迫を解除する手術を行います。
最近ではこのようなハイリスクの手術に際し、当院では手術中に神経の機能を電気的に監視する神経モニタリングを併用して、安全性を高める工夫をしています。
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図14.  手術前は脊柱管内の異常な骨が増生して脊柱管が狭くなっていました(左)。手術で骨化巣を切除して脊柱管を拡大しました(右)。

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図15.  当院で試用しているNuvasive社製の神経モニタリング装置です。

VBS(verterbal body stenting):ステントを用いた経皮的椎体形成術

脊椎圧迫骨折によってつぶれてしまった椎体を、骨折前の形に近づけ、椎体を安定させ、痛みをやわらげる治療法です。
対象となる疾患:骨粗鬆症性椎体骨折、椎体骨折後偽関節や遷延治癒
手術方法:バルーン(風船)状の手術器具、ステントや医療用の充填剤(骨セメント)を使用します。
この治療法の特長は、短時間の手術(約1時間以内)で、早期に痛みの軽減が行えること、生活の質(QOL)の向上が
期待できることです。
ベッドにうつぶせに寝た状態で背中を2ヶ所(1㎝程度)切開し、背中から針を刺入し、骨折した椎体への細い経路を
作ります。
そこへ小さな風船のついた器具を入れます。椎体の中に入れた風船を徐々に膨らませ、つぶれた骨を持ち上げます。
またつぶれないように、ステントを挿入して膨らませます。最後にその空間を満たすように、
骨セメントを充填します(図16,17)。セメントは十数分で硬化します。通常、術後の安静は必要ありません。術後数日で退院することも可能です。
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図16.  経皮的椎体形成術の手術法を示したイラストです。骨折した椎体内でバルーンを膨らませて、椎体の変形を矯正します。ステントを膨張させて、さらなる矯正を行うと同時に保持します。最後にセメントを充填し、安定化します。

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図17.  術前と術後の側面レントゲン写真です。つぶれた椎体が矯正され、ステントとセメントで補強されています。

 

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