脊椎関節疾患
当院では5名の脊椎疾患担当医が常勤しており、全員が日本脊椎脊髄病学会認定の指導医です。
また、当院では年間約600例の脊椎・脊髄手術が行われており、全国有数の規模です。
手術成績は国内学会のみならず国際学会でも発表され、高い評価を得ています。
以下に代表的疾患と当院の治療法について説明します。
頚椎椎間板 ヘルニア (けいついついかんばんへるにあ)
症状と原因
頚椎椎間板ヘルニアでは髄核が後方に飛び出すと脊髄を圧迫し、側方に飛び出すと神経根を圧迫します。
また両者が圧迫される場合もあります。
典型的な症状は、ある日突然後頚部痛、肩甲部痛、背部痛が右か左の一側に生じ、それと同時またはそれより数日~数週間遅れて同じ側の肩~上肢(腕、肘、前腕、手指)にしびれと痛み(何れかの場合もあります)が現れ、場合によっては脱力が生じます。
これらの症状は、頚椎の姿勢と関係があり、特に頚椎を症状がある側に後屈すると強くなります。この肩~上肢症状は神経根・脊髄の何れの圧迫によっても生じます。さらに、脊髄が強く圧迫されると脊髄のその後の行き先である背部・腰部・両下肢、陰部・肛門周囲にも症状が現れます。
すなわち、これらの部位のしびれ(特に足底)、脱力、歩行障がい、排便・排尿障がいです。
治療方法
椎間板ヘルニアはかなりの疼痛があっても安静を保って放っておけば治ることが多いのも事実です。
疼痛に対しては鎮痛薬を服用していただいたり、外来で頚椎牽引などのリハビリをしたりして対処しますが、これらの治療で症状が改善しない場合や症状が強い場合は入院のうえベッド上で頚椎牽引を通常2~3週間行います。
これでも改善がない場合や、神経麻痺(手や脚の脱力)が著しい場合、歩行障がいや排尿・排便障がいが明らかにある場合、これらの症状が徐々にまたは急に悪くなる進行性の場合には、手術治療を行います。
手術治療
手術は、前方法または後方法を選択します。
- 前方法
- 前方から椎間板ヘルニアを摘出し、摘出により空いた隙間に骨を移植して固定します。
- 後方法
- 脊髄を後方から覆っている骨(椎弓)の形態を変え脊髄の通り道である脊柱管を拡大する方法(脊柱管拡大術、椎弓形成術)、後方から椎間板ヘルニアを取り除く方法などがあります。
椎間板ヘルニアは通常1ヶ所に生じますが、
それ以外の部分に脊柱管の狭窄がない場合には椎間板ヘルニアのある部分のみに対し前方法を選択します。
椎間板ヘルニアが側方に位置する場合は、後方摘出法を選択する場合もあります。
後方摘出法では骨を一部削りますが、わずかなので頚椎が不安定になることは通常ないので手術後カラーは不要で、手術後2から3週で退院、早期社会復帰可能です。
また、椎間板ヘルニアは1ヶ所だが、頚椎の他の部位にも老化などで脊柱管狭窄が生じ脊髄が圧迫されていてこの部位に対する手術を同時に行ったほうが症状改善やその後の神経麻痺の発生を予防できると判断される場合には、椎弓形成術を選択します。
後療法は各術式にしたがって行います。
頚椎症性脊髄症 (けいついしょうせいせきずいしょう)
典型的な症状
いつの間にか、手指や足指・足底にしびれが生じます。
そのうち、皮膚の感覚がおかしくなり、風呂の湯の熱さに鈍感になることもあります。後頚部・肩甲部痛、肩~上肢(腕、肘、前腕、手指)の痛みを伴う場合もあり、頚椎の後屈で増強されることが多いです。また、そのうち足手指の細かい作業が困難となり、なんとなく指先に力が入らず箸が使いづらくなったり、ボタンがかけづらくなったりします。茶碗を落とすこともあります。これらの症状は左右両方に出る場合が多いですが、片方から始まることもあります。歩行障がいも出現します。
階段昇降時、降りで手すりを使わないと不安定な感じがしたり、昇りで下肢の疲労感が強く出たりします。
また、排泄の障がいが生じ、尿漏れが生じ下着が汚れる場合もあります。
これらの症状は徐々に進行し、また、一度よくなっても再発し次第に悪くなります。
また、転倒・自動車の追突などの軽微な外傷により、急性に悪くなる場合もあります。
治療方法
頚椎の安静で症状が一時的に改善することはありますが、進行性のことが多いので、ある程度症状が悪くなったら、手術治療を要します。
手や足に痺れがでて、手の使いづらさ、歩行障がいが現れた場合には手術を行ったほうがいい場合が多いです。
さらに、症状が進行性の場合や排尿障がいが現れた場合には早急に手術を考慮します。
原因の病変は多数の部位に及ぶことが多く、手術では通常は後方法(椎弓形成術)を選択します。また、病変が1ないし2椎間の場合には前方法を選択する場合もあります。
手術後の後療法は各術式によります。
頚椎症性神経根症 (けいついしょうせいしんけいこんしょう)
通常、1つの椎間(上下の椎骨と椎骨の間)に生じます。左右同時に起こるというより片側のみに生じることが多い。
2椎間に生じる場合もあります。
典型的な症状
ある日突然後頚部痛、肩甲部痛、背部痛が右か左の一側に生じ、同じ側の肩~上肢(腕、肘、前腕、手指(親指、人差し指、中指、薬指が多い)にしびれと痛み(何れかの場合もあります)が現れ、場合によっては腕や手指の脱力が生じます。
これらの症状は、頚椎を症状がある側に後屈すると強くなります。起きているより寝ているほうが症状が軽いことが多い。
治療方法
安静にして消炎鎮痛薬を使用し、また、外来で頚椎牽引を行うと、改善する場合が多いのですが、4ヶ月間ほど要する場合もあります。疼痛が強烈で外来の投薬では改善しない場合や、脱力(神経麻痺)がある場合には、入院でベッド上で頚椎牽引を2から3週行いますが、軽快しない場合や、疼痛コントロールが困難な場合、麻痺が強い・または進行性の場合は手術を行います。
手術は1椎間、2椎間いずれの場合にも、前方法を行うか、後方法の椎間孔部開放術を行います。前方法は固定術を行いますので術後カラーが必要です。
手術翌日から歩行を開始し、2ヶ月ほどの入院、安静を行います。一方、後方法ではカラーは不要ですので、術後2-3週で社会復帰が可能です。後方法はあまり行っている施設は多くなく、一般的には前方法を行いますので、社会復帰までは2ヶ月必要と説明されることが多いようですが、当院では神経の圧迫具合によりますが、後方法の選択により早期社会復帰が可能です。
脊柱靭帯骨化症 (せきちゅうじんたいこつかしょう)
概要
脊椎骨は上下に連なると柱状になり、これを脊柱と言います。
脊柱では上下の椎骨同士はいくつかの靭帯というバンドで繋がっていてバラバラにならないようになっています。脊柱のうち、神経が通る縦穴を脊柱管といいますが、この脊柱管を内側から見ると、前方の壁は椎体の後面、椎間板で、後方の壁は椎弓という骨で覆われています。
前壁の表面は縦に伸びている靭帯で繋がっておりこの靭帯を後縦靭帯といいます。また、後壁の上下の椎弓間には縦に黄色い色をした黄色靭帯が覆っています。
後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症は、これらの靭帯が厚くなり(肥厚症)、更に固い骨に変化してしまう疾患です。これらは厚生労働省の特定疾患難病に指定されています。これらの骨化症は脊柱管内に生じるので脊柱管が狭くなります。骨化靭帯と神経の位置関係をみると、神経の圧迫は後縦靭帯骨化症では前方から、黄色靭帯骨化症では後方からです。
これらの骨化により中を通る神経(脊髄、神経根)が圧迫され脊髄症、神経根症が生じます。
後縦靭帯骨化症は頚椎、胸椎に生じることが多く、黄色靭帯骨化症は、胸椎、腰椎に多く発生します。これらが頚椎で生じると頚髄症、頚椎神経根症を、胸椎で生じると胸髄症を、腰椎では脊柱管狭窄症を発症します。
靭帯骨化症は通常40歳代以降で発症し、症状は徐々に進行します。症状は頚椎症と同様です。胸椎に生じた場合には頚髄症で見られると同様の両下肢のしびれ、歩行障がい、排泄障がいが生じます。排泄障がいでは場合によっては尿が出づらくなり、残尿、尿閉を生じます。胸椎より上には症状が出ませんので、頚椎病変を合併しない場合は頚部・肩甲骨部痛、上肢の症状はありません。
治療方法
頚椎後縦靭帯骨化症
頚髄症は通常徐々に発症してゆきますが、靭帯骨化症では椎間の可動性が小さくなり、動きが固くなっていきます。
動きが残っている椎間に力が集中し症状が急速に悪化する場合もあります。
手や足に痺れがでて、手の使いづらさ、歩行障がいが現れた場合には手術を行ったほうがいい場合が多いです。また、症状が進行性の場合や排尿障がいが現れた場合には早急に手術を考慮します。原因の病変は多数の部位に及ぶことが多く、手術では通常は後方法(椎弓形成術)を選択します。手術後の後療法は椎弓形成術後のものになります。
胸椎後縦靭帯骨化症
後方法(椎弓切除術)、または前方除圧固定術を選択します。
胸椎は通常背中側が凸の緩やかなカーブ(「後弯」といいます)を描いています。その中を通る、弾力性のある脊髄は、前方から骨化巣により圧迫されていますので、除圧は前方からの骨化巣切除が理にかなっていますが、骨化巣の直接切除は難しく脊髄麻痺などの危険を伴います、脊髄が骨化巣により後方にある椎弓にまで押し付けられている場合には、安全性の高い後方除圧(椎弓切除)を行います。また、頚胸椎移行部から胸椎の上部にかけてと胸腰椎移行部は後弯が小さくストレートに近いため、この部の骨化巣には後方除圧を選択します。胸椎の中央部などで後方除圧では脊髄の圧迫の改善が期待できない場合には、前方除圧固定を行います。
胸椎黄色靭帯骨化症
胸椎黄色靭帯骨化症では、通常後方法の椎弓切除術を行います。この際、脊髄を後方から圧迫している肥厚・骨化した黄色靭帯を同時に切除します。
腰椎椎間板ヘルニア (ようついついかんばんへるにあ)
椎間板はアンパンのような2層構造をしており、パンが破れてアンが飛び出した状態がヘルニアです。
30歳前後から椎間板は老化してくるので、破れなくても弛んでやや飛び出たように見えることがありますが、これはヘルニアではなく特別な治療の必要はありません。
脊椎専門医のいない医療機関で診断を受けると安易に「ヘルニアです」といわれますが、その多くはヘルニアではなくただの老化現象です。
そのような経験のある方は、専門医の診察を受けることをお勧めします。
治療方法
ヘルニアの治療法は手術療法と手術以外の方法(保存療法)に大別できます。
ヘルニアが神経を圧迫して下肢の進行性の麻痺や排尿障がい(排尿神経の麻痺)が生じると、できるだけ早期に手術を行う必要があります。他の場合は必ずしも手術を必要とはしませんが、手術以外の方法で痛みが取れない、早く確実に直したい、という場合にも手術を考慮します。
手術は通常背中側から行います。従来は5から10センチほどの皮膚切開を加えて筋肉を背骨から剥がして背骨を露出する手術方法(Love法)をとっていました。
2004年より当院では、直径25mmの特殊な円筒状手術器具(X-tube)を使用して、小さな皮膚切開で筋肉損傷を軽減した最新の手術方法を採用しています。従来よりも術後の創の痛みが軽く傷も小さいので患者さんには好評です。
スポーツ選手など筋肉損傷を極力避けたい方にもよい方法です。内視鏡を用いると創はさらに5mmほど小さくすることが可能ですが、内視鏡は立体視できません。そのため奥行きがわかりにくく、従来の方法よりも神経損傷などの危険がやや高く手術時間は倍近くかかります。当院で採用している手術法(X-tube)は、立体視できるので危険性は従来の方法と同等、手術時間は従来比で+20%程度であり、優れた方法といえます。
腰椎分離症 (ようついぶんりしょう)
分離すべり症 (ぶんりすべりしょう)
腰椎分離症は、過度のスポーツなどによる、10代の成長期における腰の骨の疲労骨折が原因といわれています。
野球、サッカー、ラグビー、バレーボール選手などに多く見られます。分離症自体は一般人の5%くらいに認められ、決して珍しいものではありません。
治療方法
80%以上が第5腰椎に発生し、両側分離と片側分離があります。分離症の人の一部はすべり症に進行するときがあります。
成人で発見される分離症や分離すべり症は、ほとんど症状のない場合もあります。腰痛のみが唯一の症状のときもあります。
また、神経根の圧迫により下肢のしびれ、痛みを呈することもあります。若年者で新鮮な分離症のときは硬性コルセットを使用して分離部の骨癒合を図ります。成人例で腰痛のみの症状のときは、鎮痛剤の内服、装具などによる保存治療を行います。
保存治療で改善せず、下肢の神経症状を伴うときは手術治療を考えます。手術は神経の圧迫を取り除き、骨がぐらついているときは固定術を併用します。この疾患では固定術を行う方が多いです。術後は硬性コルセットを1ヶ月位装着し、その後6ヶ月位軟性のコルセットを使用します。手術治療の成績は良好です。腰痛や下肢痛はかなりの改善が見込まれます。
当院では年間約15例の本疾患による手術例があります。
入院後の検査、手術、リハビリ期間を含めて約5~6週くらいで退院可能です。退院後は2週に1回位外来でレントゲンを撮って経過観察していきます。骨は4~6ヶ月位で骨癒合します。激しい運動や重労働は術後1年くらいは控えましょう。
腰椎変性すべり症 (ようついへんせいすべりしょう)
40代から50代の女性に効発する疾患で、レントゲン写真で腰椎がずれている状態をいいます。最も多いのは第4腰椎のすべりであり、前方(腹側)にずれることが多いです。原因は不明ですが、骨のつなぎ目(椎間関節)の形態や女性ホルモンの分泌低下などが関係していると言われています。
骨がずれるために、神経の通り道が狭くなり、脊柱管狭窄の症状を呈します。歩行時に増悪する下肢のしびれ、間欠性跛行を呈します。ただし、腰の骨の不安定性の程度が強いときは腰痛の程度が強くなります。
すべり症自体はけっしてめずらしいものではありません。60歳以上の女性では約10%の方に認められます。そのため、レントゲンですべりを認めても、症状が特になければ治療の必要はありません。症状が軽い場合は脊柱管狭窄症と同様の保存治療を行います。
腰痛がひどかったり、しびれや間欠性跛行の程度が強いときは手術が必要になります。
この場合は圧迫された神経をゆるくすることと、骨を固める固定術が一般的に行われます。
術後は翌日から硬性コルセットをつけて歩行開始です。硬性コルセットを約1ヶ月装着します。(骨粗鬆症がある人はもう少し長くなるときもあります。)その後、軟性コルセットを6ヶ月位装着します。当院では年間約70例の本疾患による手術例があります。
入院後の検査、手術、術後のリハビリ含めて、除圧のみの方で平均3週間位、固定術を併用した方で平均5週間位です。
腰部脊柱管狭窄症 (ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)
腰の骨の中の神経を入れている通り道(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫されることにより起こります。脊椎を構成している椎間板や椎間関節が年齢とともにすり減ったり、反応性に関節や靭帯が肥厚したりすることにより神経を圧迫することになります。
50歳以降に症状が出現することが多いです。
もっとも特徴的なのは歩行により下肢の痛み、しびれ、脱力が出現し、安静により軽快する間欠性跛行(かんけつせいはこう)です。この歩行障がいは買い物カートなどにつかまると楽に歩けたり、自転車なら、いくらでも乗っていられると表現したりします。
その他、腰痛、下肢の冷感、また排尿・排便の障がいが出現することもあります。
症状が軽い人には飲み薬や理学療法が選択されます。薬は痛み止めを基本にして筋弛緩剤や血管拡張剤、漢方薬等を併用することもあります。プロスタグランジンの点滴が効果ある人もいます。理学療法は牽引治療や温熱療法、また腰痛体操による体幹筋の訓練が行われます。
休まないで歩ける距離が500m以下になってきたら、そろそろ手術の段階です。手術は圧迫された神経をゆるくします。具体的には骨や靭帯、椎間板などを削ります。圧迫されている場所が1箇所だけなら手術は1時間位で終わります。
翌日からコルセットをつけて歩く練習が始まります。術後はコルセットを3ヶ月位使用します。
当院における手術治療の成績は非常に良好です。健康な状態を100とすると、術前50位の患者さんが、術後90位には回復します。術後3ヶ月もすると、ゴルフや釣りを楽しんでいる患者さんもたくさんおります。種々の保存治療を試しても症状の寛解が得られないときは手術治療を勧めます。
入院後の検査、手術、術後のリハビリを含めて3週から4週間で退院可能です。その後は2週間に1回位の外来通院で経過を見ていきます。
腰椎変性側弯症 (ようついへんせいそくわんしょう)
基本的には腰部脊柱管狭窄症や変性すべり症の症状を呈するが、脊柱変形が側弯を伴うタイプのものです。神経圧迫が多くの部位で起こったり、変形の矯正に多椎間の固定が必要になったりすることもあります。手術治療の内容は圧迫神経の解除と不安定腰椎の固定術となることは変性すべり症と同様です。
脊椎外傷 (せきついがいしょう)
当院ではあらゆる種類の脊椎外傷の治療を行っています。近年、高齢化社会の到来とともに骨粗しょう症に伴う脊椎骨折が増え、当院でもその治療に特に力を注いでいます。
そこで、骨粗しょう症に伴う脊椎骨折の種類と当科での治療法を説明します。
- 圧迫骨折
脊椎骨折の中で最も高頻度です。基本的に手術は不要で、コルセット処方などにより外来で加療します。2~3ヶ月程度でやや潰れた状態のまま骨が固まり治癒します。
やや猫背になりますが、日常生活に支障をきたすことはまれです。
- 破裂骨折
圧迫骨折より重度の骨折です。骨折した骨が神経の通り道(脊柱管)へ突出します。骨の破壊がひどい場合や麻痺を生じた場合は手術を行います。
腹や胸を開いて手術する場合と背中側から手術する場合があります。どちらも脊椎固定用金属(インストゥルメンテーション)を用いて早期に歩行開始できるようにします。術後3~4週間で退院可能です。
- 椎体圧潰
圧迫骨折は前述のように通常は手術をしなくても徐々に骨が固まります。しかし、骨への血の流れが悪く骨が徐々に死んでしまう(壊死)ことがまれにあります。壊死により脊椎が進行性に潰れるのが椎体圧潰です。特に潰れた脊椎内部に空洞ができると脊椎が不安定となり、頑固な疼痛や麻痺を生じることがあります。痛みのために座ることや歩くことが困難な場合や下肢の麻痺(神経麻痺)を生じると手術が必要です。
従来は腹や胸を開ける前方手術やそれに加えて背中側から手術する前方・後方手術が必要でした。この手術は体への負荷が大きく高齢者や余病のある患者さんには行うことが難しく、手術治療をあきらめざるを得ないこともありました。
そこで当科では、2002年より椎体形成術という最新の手術法を行っています(2004年9月1日北海道新聞掲載)。
この手術法は潰れた脊椎内部に背中側から骨と結合するセメントを注入する方法です。さらに当院では脊椎固定用の金属で補強する方法を採用しています。この方法は従来の方法よりも短時間かつ少ない出血ですみ、体力のない高齢者にも可能です。2004年10月現在、当院と関連施設で23例の手術を行い、手術時年齢は59~85歳(平均75歳)です。現時点で2例に背部痛が残存していますが、他の21例はほとんど痛みがない状態です。術後4週間程度で退院可能ですが、状況によってはより長期のリハビリを行います。